同一労働同一賃金

 日本の労働慣行では「同じ労働でも違う賃金」が“常識”です。「年齢(年功序列)」「学歴(高学歴かどうか)」「コネの有無」「資格の有無」「男女(もちろん男>女)」「雇用形態(正規か非正規か)」で同じ労働をこなしていても給料は違う、が当たり前なのですから。これをすべて「平等」にするためには、「労働」だけではなくて「日本社会のあり方」すべてを見直す必要があるのではないでしょうか。

【ただいま読書中】『同一労働同一賃金の衝撃 ──「働き方改革」のカギを握る新ルール』山田久、 日本経済新聞出版社、2017年、1800円(税別)

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 日本で「同一労働同一賃金」は「正規/非正規」の格差に焦点が当てられていましたが、西洋先進国では「男女あるいは人種間の格差」の方に焦点が当てられていました。これはつまり「日本には『男女の格差』は存在しない」ことを意味している、のではなくて、「『男女の格差』には触りたくない」という日本人の意思の表明、と言えるでしょう。触りたくないものから目をそらして、触りやすそう(制度や法律の文言を変えるだけですみそう)に見えるものにだけ注目しているわけですから。

 欧米では「仕事」が先に提示され、それに対して募集がかけられます。だから「同一労働」に対して「同一賃金」は設定しやすくなっています。ところが日本では、まず「人」が雇用され、それに対して仕事が割り当てられます。つまり「同一労働」の設定そのものがありません。非正規雇用には「まず仕事の提示」がありますが、これは「正規雇用とは別の世界のお話」と扱われます。

 戦前の日本では「労働者は企業を渡り歩くのが当たり前」でした。そのため戦後すぐに「同一労働同一賃金」がGHQ主導で導入されようとし、失敗しました。アベノミクスがこの“過去の失敗”から何かを学んでいるのだったら良いのですが。

 ドイツの賃金体系は私には衝撃的でした。各地域ごとに「賃金等級・給与等級」について「時間当たり賃金」または「月給」が公表されていて、各企業では会社と従業員代表会が「その会社のすべての職務をどの賃金等級に格付けするか」を決定します。これで個々の労働者の賃金が自動的に決まります。さらに、労働組合に所属していない労働者にもこの決定が適用される「拡張適用制度」があります。その結果、男女の所得格差は減りましたが、ジニ係数は上昇(つまり、労働者間の所得格差は拡大)しています。

 賃金の男女格差が一番小さい国の一つ、スウェーデンでは、パートタイム労働者とフルタイム労働者の賃金は「同一」です(もし格差がある場合、合理的根拠が示せるようになっています)。ただしスウェーデンでも「キャリアの格差」は残っていて、女性の場合「ガラスの天井」が存在しているそうです。また、スウェーデンジニ係数も(ドイツや日本ほどではありませんが)少しずつ上昇傾向にあります。

 重要なのは、ヨーロッパでの「同一労働同一賃金」は「人権(差別の撤廃)」の観点から導入されていること。日本は「所得格差の是正」という「経済の視点」で導入されようとしていますが、これは危うい態度だと著者は指摘しています(実際に日本より「同一労働同一賃金」が達成されているヨーロッパで、所得格差が拡大しつつあるのですから)。「男女の賃金」は、たとえば「子育てを誰が行うか」の社会システムとも密接に関係しています。スウェーデンでは「男女で子育て」と「男女同一賃金」はほぼ問題なく両立しますが、「仕事は男、家事・育児は女」の日本ではどうでしょう?

 「処遇の公平さ」は「賃金」だけの問題ではありません。「人材育成」「能力開発」など「成果」に直接つながらない部分をどう評価するか、も問われます。また、「モチベーション」には「賃金」だけではなくて「仕事の意義」「将来の展望」も重要です。

 「同一労働同一賃金」には“罠”がいくつもあります。たとえば「非正規雇用の賃金上昇」は「正規雇用の賃金低下」を起こすことがあります。「最低賃金の上昇」は「雇用環境の厳しさ」をもたらします。企業は収益を上げるために活動していて、人件費の上昇はつまりコストの上昇になるから、それは避けたいのです。

 労働組合のあり方についても興味深い指摘が本書にあります。会社ごとに孤立した労働組合では「我が社の社員」のことしかわかりません。しかし、欧米のように「職種」によってまとまり、各企業を横断的にまとめた労働組合だと、労働者全体の処遇についての発言ができるようになります。さらに本書では、日本の労働組合(一つの企業の組合)が「社会」に視野を広げて活動をすることによって、その企業の労働環境を改善した例が紹介されています。社会は変わりつつあるのですから、これからの労働組合も“変身”をしていく必要がありそうです。

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