◆ネット広告の「詐欺」がなくならない根本理由  メディア選別が広告主にとって最良の道だ

◆ ネット広告の「詐欺」がなくならない根本理由  メディア選別が広告主にとって最良の道だ

東洋経済オンライン】 04/17

関田 真也:東洋経済オンライン編集部

 スマートフォンの普及によって、インターネット広告の市場は爆発的に伸びた。

アメリカでの広告費は、1996年には6億?だったが、2017年には774億?に伸びており、実に20年で100倍だ。

日本においても、2016年にはインターネット広告費の市場は1兆円を超えている〔電通「2016年(平成28年日本の広告費」〕。

 そうした中で、世界的にアドフラウド(Ad Fraud)と呼ばれる行為が横行している。

これは、「Ad(広告)」と「Fraud(詐欺)」を組み合わせた造語。

後段で詳述するが、昨年1年間で年間72億?にも及ぶ被害額があるという。

いったい、どのような違法行為が行われているのだろうか。

● なぜ詐欺行為が蔓延しているのか

 このアドフラウドの実態について詳述する前に、インターネット上で取引されている広告の仕組みについて触れておこう。

この仕組みの中には詐欺が行われる”盲点”があるためだ。

 インターネットに掲載されている広告は、テレビや新聞など従来のメディアと同じく広告主が直接的にメディアと相対で取引する方法に加えて、システムを使って取引を行う「運用型広告」が存在する。

運用型広告の流通現場では「RTB(Real-Time Bidding)」と呼ばれる瞬時に広告の取引を行うシステムが確立している。

広告主にとってみれば、システムにすべてを委ねることができるため効率がいい。

また、個々のユーザーによる検索ワードや、閲覧内容にひも付く情報をベースにして「ターゲティング」がなされており、広告のクリック率と成約率が把握できる。これによって広告効果が明確になるという建前になっている。

一見すると、広告主にとって効果を実感しやすくなっており、これがインターネット広告の投資が大きく拡大する要因になった。

 一方で、広告が掲載されるのは、ユーザーが持つ膨大な数の端末。

広告主は、自社の広告が、どのメディアにどの程度実際に掲載されているか、正確に把握することは不可能に近い。

物理的に掲出したことを確認できる、街の看板広告のようにはいかない。

 そうしたリアルタイムな広告取引の複雑性の”盲点”につけ込む形で、世界的に横行しているのがアドフラウドだ。

掲載された広告がきちんとユーザーに見える形で表示されているのか、もし表示されていたとしても、見ているのが本当に生身の人間なのか、という根本的な問題がクローズアップされている。

 不正広告を排除する対策ツールを提供するMomentum(モメンタム)社の高頭博志社長は、「広告投資を行う側からみると、アドフラウドにおける問題は、あたかも誰も住んでいない廃墟にチラシを届けるかのような、無価値な広告投資を行ってしまうことにある」と指摘する。

 米国の広告業界団体「Association of National Advertisers」のリポートによると、2016年の世界全体のアドフラウドによる被害額予測は72億?。

DSP(Demand-Side Platform、広告主のために用意された広告配信プラットフォーム)事業者とモメンタムが共同で行った調査によると、日本では、全体の広告配信の1%弱がアドフラウドとして観測されているというデータも存在するという。

 次にアドフラウドの具体的な手法を見ていこう。

まず、 BOT(ロボットのこと)と呼ばれるコンピュータプログラムを用いる手口がある。

ディスプレー型広告の成果は、表示回数(インプレッション)によって決まり、それがどのサイトで発生しているか、そもそも人が本当に見ているかといったことは重視されていない。

そこで、プログラムにより操作したブラウザによって、特定のサイトのインプレッションを大量に発生させたり、一定間隔でクリックを発生させるなどの方法で、成果があったように偽造しているのだ。

読んでいる読者がいないのに部数を水増しする、新聞の「押し紙」のイメージに近いかもしれない。

● 他人のサイトに、勝手に広告を貼り付ける手法も

 また、第三者のメディアから広告枠をかすめ取る「Ad Injection」といわれる手法もある。

ユーザーが閲覧しているメディアに、本来掲載されるべきものではない広告を第三者が不正に挿入するというものだ。

ウェブを見る機能を持つアプリなどによって、ユーザーが閲覧中のページを書き換え、本来掲載されている広告の上に、まったく無関係な広告を差し込む。

 電車の中吊り広告の上に、勝手に別の広告を貼り付けているようなイメージだ。

広告の収益は不正な事業者に対して流れてしまい、ユーザーにコンテンツを提供したメディアへは広告収益が入らない。

アドフラウドによって、広告主だけでなくコンテンツを提供するメディアも搾取されてしまっているのだ。

 「アドフラウドは、世界的に見ると組織犯罪の中で麻薬取引に次ぐ犯罪になると予測されており、大きな社会問題となっている。

情報商材を販売する事業者であったり、クレジットカード決済の不正を行っている事業者など、さまざまな反社的な活動を行ってきた事業者が、アドフラウドを新たな収益源としている動きも見られる」(高頭氏)

 アドフラウドのような不正を見抜く各種ツールは存在する。

しかし、しょせんはいたちごっこ。

そこで異なるアプローチからインターネット広告の状況を変えていくべきという意見もある。

 悪質なサイトのブラックリストを作るのではなく、良質なメディアのホワイトリストを作る考え方へ転換するべきというものだ。

ニュースアプリ「SmartNews」を運営するスマートニュース社で、ブランド広告責任者を務める菅原健一氏は「あまりにも広告不正が蔓延していて、ブラックリストを作っても対象が多すぎてリストを作ることが難しい。 本質的にはいたちごっこになるだけで、広告主が付き合っているほうがコストが高くなってしまう」と指摘する。

 インターネットがオープンな世界である以上、誰でも自由にメディアやECサイトを作り、サイト上にバナー広告のスペースを作ることができる。

また、対策を施したとしても、それをくぐり抜ける新たなアドフラウドの手法が生まれることも避けて通れない。

そうした状況で、不正排除に血道を上げたところで、生産的とは言えないのではないかということだ。

 菅原氏は、「広告主は不正を暴くことにコストをかけるよりも、上位20%のトップティアのメディア以外は取引しないという意識が重要」という考え方を示すが、これは説得力があるだろう。

実際、2015年ごろからは、PMP(Private Market Place)と呼ばれる広告取引市場が登場している。

これまでのオープンなオークション方式のRTB(Real-Time Bidding)とは異なり、参加できるメディアと広告主が限定されていて、掲載先の品質担保が容易になっている。

● 成果だけを重視しすぎることが根本的な問題か

 しかし、今のウェブ運用型広告の世界では、まだ「1クリック当たりいくらコストがかかるか」というCPC(Cost Per Click)という基準が主になっていて、どこに、どのような形で広告が掲載されているかについては、本格的な関心が及んでいない。

リアルの世界では、無意識のうちに大手企業がいかがわしい場所に自社の広告を出して、それが反社会的勢力の資金源になっているなどということは起こりえないが、それが起きてしまう可能性があるのが、現在のインターネット広告の世界だ。

 広告主としては、掲載先の選択肢は多いほうがよいと考える面もあるため、小さなウェブサイトにも幅広く露出させたいというニーズが消えることはなさそうだ。

不正排除の対策も必要だが、そもそも根本的な問題として、コストをかけて価値のある情報を提供している良質なメディアも、「フェイクニュース」を垂れ流したり、他のメディアからの盗用が横行しているようなサイトも、1つのインプレッションがあれば、それに対する広告の価値はイコールという考え方になってしまっていることが異常といえる。

 そうした状況が、「どのような形でもいいから、広告が表示されたことにすれば構わない」という発想を生み、これまで述べてきたような犯罪的行為の横行につながっているのだ。

今後は、広告主がインターネット広告での本質的な価値とは何かについて再考することが、健全な広告市場を守るために重要になってくるのではないだろうか。

      ◇◇◇

関田 真也(せきた しんや)

東洋経済オンライン編集部

慶應義塾大学法学部法律学科卒業

一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了

教育事業会社の出版グループで編集業務に従事したのち、法律的なテーマに特化した取材・執筆を行い、インターネットメディアを中心に複数の媒体に寄稿

2015年司法試験合格

同年11月より東洋経済オンライン編集部に所属

連載として「奨学金制度はどうあるべきか」、「『日本型雇用』の現実と未来」

特定の担当業界を持たず、社会問題から企業、行政まで幅広く取材している