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読書感想文 「戦場で心が壊れて」 アレン ネルソン

 おすすめ度 ★★★★★

 前回紹介した「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」の姉妹編です。こちらも子供向けに書かれた本ですが、子供だけに読ませておくのはあまりにもったいない、世界中で広く読まれるべき本です。

 海兵隊員としてベトナム戦争に従軍した著者は、帰還後、深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しめられます。戦場での光景、体験が、何かのきっかけで不意にフラッシュバックし、パニックに陥ってしまうのです。例えば、ハエを見ると戦場で黒い毛布のように死体に群がる虫の映像が甦り、釣りに行けばえさのミミズやゴカイからベトナムの湿地で苦しめられたヒルを思い出し、叫び声をあげてしまいます。眠れば戦場の夢を見てしまい、満足に睡眠がとれません。

 彼を救ったのはニール ダニエルズ医師でした。ダニエルズに出会い、彼は初めて、自分がベトナム症候群と呼ばれるPTSDであると知ります。著者は週に1度ダニエルズの診察を受け、彼の質問に答えながら、自分の心の中にあるものと向き合っていきます。

 ダニエルズはカウンセリングの最後に決まって、「あなたはなぜ人を殺したのですか?」と尋ねました。彼が「戦争だったから」「自分が生き延びるため」「上官の命令」等、毎回思いつくことを答え、ダニエルズは「わかりました。じゃあまた来週」と言って、その日の治療が終わるのが常でした。

 ところがある日、ダニエルズ医師はいつもの質問、「あなたはなぜ人を殺したのですか?」を、カウンセリングのはじめに問います。彼がいつものように「命令に従ったからです」と答えると、ダニエルズは「ふむ、で、あなたはなぜ人を殺したのですか?」と合いの手を入れるように、同じ質問を繰り返しました。

 「先生、戦争だったんですよ」と彼が答えるとダニエルズは、「うん、で、どうしてあなたは人を殺したのですか?」と再び訊いてきます。こんな調子で同じ問いかけが繰り返され、彼のいつもの答えは出尽くしてしまいました。ダニエルズ医師を信頼していた彼は、自分の心のもっと深くを見つめ、答えなければならないと気づき、今まで言ったことのなかった答えを口にします。ダニエルズはそれを聞いて黙ってうなずきます。そのときの「私の中で何かが動きました」という不思議な感覚を端緒に、彼は快方に向かい、戦場を体験した帰還兵として自分が為すべきことに取り組み始めます。

 彼が最後に見つけた答えはネタバレになるのであえて書きませんが、とにかく、子供から大人まで、広く読んでほしい本です。彼が最後に述べる、日本という国、日本の憲法や、沖縄についての意見に反発する人がいるかもしれませんが、脊髄反射的に「反日云々」(「でんでん」とは決して読みません。念のため)と決めつけず、彼の体験が自分に、自分の配偶者に、自分の子供に、恋人に起こったという前提で考えるべきだと思います。答えは自ずと明らかです。